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道平はゆつくりと首を動かして訊いた。
この廃坑は旧幕時代の末頃まではまだ採掘されていて、これあるがために河原町は当時幕府直轄の天領となつていた。そして、上流にある城下町の藩主が参勤の途上この河を利用して下る時、天領との間に何か紛争の糸口のつくのを憚はゞかつて、河原町の傍を通る間は舟に幕をはり、乗組の者は傍見をして下つたと云ふ。それほどであつたから、この領内の民は他領との縁組を嫌ひ、他領から移り住む者を許さなかつたし、狩猟とか交通とかその他様々な点で非常な横暴と特権とを許されていたものだつた。
「それは、まあ、都会風でいけばそれでいゝわけだが」
「おーい、火事はどこい行つたあ」こんな風に、口々に喚いていた。
「をかしいから笑つたのだ」
「先生、どうしなさる?着て行きますかい」
「や、それでは――」
答へながら、彼は紅くなつていた。
私は別にそれがどんなものかは聞きはしなかった。彼女の言葉に同感の意を表して、やはり自分のあれは本当なんだなと思ったのである。ときどき私はその「牢門」から溪へ出て見ることがあった。轟々たる瀬のたぎりは白蛇の尾を引いて川下の闇へ消えていた。向こう岸には闇よりも濃い樹の闇、山の闇がもくもくと空へ押しのぼっていた。そのなかで一本椋むくの樹の幹だけがほの白く闇のなかから浮かんで見えるのであった。
盛子は風呂場の入口で上はずつた声を出した。
「おぢいさん、そんなに立つてばかりいないで腰をかけなさいよ」
彼は男の顔を蔽つている手拭をとりのけながら云つた。